ナショナルバイオリソースプロジェクト
URLhttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/02/f_020213.htm

「ショウジョウバエ」の経過報告

2002年8月17日

京都工芸繊維大学
ショウジョウバエ遺伝資源センター

山 本 雅 敏

 

ショウジョウバエ研究者の皆様

ナショナルバイオリソース(NBR)プロジェクト「ショウジョウバエ」事業についてご報告いたします。また、申請時にご協力いただきました皆様には、経過報告が遅れましたことをお詫びいたします。

平成14年1月8日に、林茂生さんの肝いりで、申請に向け議論し、叩き台を作成することが出来ました。それを基本として、本プロジェクトの目的「ライフサイエンスの総合的な推進を図る観点から、実験動植物(マウス、シロイヌナズナ等)や、ES細胞などの幹細胞、各種生物の遺伝子材料等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについての体系的な収集・保存・提供等を行うための体制を整備することを目的とする。」に沿った形で申請書の作成を行いました。内容は;

リソースの収集・維持・提供[系統維持事業]を強調するものとし、BACライブラリーの作製、SNPマーカーの整備、RNAi変異体の作製、FRT系統の作製などリソース作製[開発事業]、さらに系統の凍結保存法の開発を含めたものとしておりました。

これら[系統維持事業][開発事業]にかかる事業費としては、本プロジェクトの目的に沿う内容であることと、規模を勘案して調整を計り、ほぼ等分になりました。(3月11日)

平成14年4月18日、文部科学省のナショナルバイオリソース(NBR)プロジェクト採択通知に先立ち、採択にあたっては、「開発事業」はRNAi系統の作成を除いて全面的に削除するようにと具体的な指導をうけ、大至急申請参加者の方々には連絡を取り、事情をご説明して、ご理解を得て、業務計画を修正し、要請のあった追加資料として下記事業内容(添付しています委託業務仕様書参照)の事業計画を打診し、5月29日付けで採択する旨の通知を受取りました。6月から7月にかけて業務計画や委託業務仕様書の作成を、国立遺伝学研究所、愛媛大学、杏林大学の協力で取りまとめ「ショウジョウバエ」プロジェクト事業の準備を行ってきました。

事業内容:

    1. 突然変異系統/野生型系統/染色体異常系統など標準系統の拡充
    2. ゲノムワイドなトランスポゾン挿入系統の収集・維持・提供
    3. RNAi変異体系統の作製・維持・提供
    4. 日本産ショウジョウバエの収集・維持・提供
    5. 近縁種の収集・維持・提供
    6. 系統分類講習会開催

中核機関としては京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センターがあたります。なかでも、キイロショウジョウバエ系統の収集・維持に関する1〜3の業務をサポートするサブ機関として国立遺伝学研究所、4、5、6を遂行するサブ機関として愛媛大、杏林大がそれぞれ担当するというものです。

また、当初運営委員会に加えて、アドバイザリーコミティの設置を計画しましたが、文部科学省の指導により統合して運営委員会(下表)として、初年度は以下の方々に委員をお願いしました。第一回の運営委員会は8月24日に開催予定です。

運営委員会:◎委員長

 布山 喜章
 東京都立大学大学院 理学研究科 教授
  上村  匡
 京都大学 ウイルス研究所 教授
  木村 正人 
 北海道大学 地球環境科学研究科 教授
  多羽田哲也
 東京大学 分子細胞生物学研究所 教授
  高野 敏行
 国立遺伝学研究所 助教授
  山本 雅敏
 京都工芸繊維大学 ショウジョウバエ遺伝資源センター教授
  上田  龍
 国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 教授
  松田 宗男
 杏林大学 医学部 教授
  和多田正義
 愛媛大学 理学部 助教授
△ 都丸 雅敏
 京都工芸繊維大学 ショウジョウバエ遺伝資源センター 助手

今回のプロジェクトに関しては文科省の方も全く新規の事業であることから大変苦労をされているようです。プロジェクトは7月1日から発足したと連絡は受けておりますが、事務処理の混乱は今も続いている状態です。8月に入っても緒手続の確認のためのやりとりなどがあり、現在漸く一段落した状況です。予算の配分はまだ行われていないことから、見切り発車した状況です。

このようなことから皆様へのご報告が遅れておりました。現在、実質的な「サービスの開始」の準備が整ったところであり、初年度は運営の面でいろいろ不手際もあるかと危惧しておりますが、日本における新しい形でのストックセンターの成長にコミュニティーとしてのお力添えをお願いいたします。

 

(参考文献)プロジェクト全体の計画書です。
委託業務仕様書

課題名「ショウジョウバエ遺伝資源の総合的管理・開発・提供事業」      
I.事業の全体計画   

1.事業の趣旨

 生命の維持、種の存続、さらに適応と進化など、生命機構に必要な基本遺伝子は生物の種を超え類似している。ショウジョウバエの全遺伝子数は約13,000で、ヒトの約半分であるが、相同性の高い(約60%)共通な機能を持つ遺伝子が多く発見されている。さらにショウジョウバエにはこれまでに解明されている遺伝子数が他の生物と比較して最も多く、突然変異系統数も圧倒的に多い。系統を多く収集、保存管理して研究に迅速に提供できる基盤整備はライフサイエンス研究の推進に不可欠である。特に全遺伝子に対応する突然変異系統の作製が可能なショウジョウバエのモデル生物としての重要性が高まっている。このような状況において、ショウジョウバエの突然変異系統を網羅的に収集し、ポストゲノム研究に必要な遺伝資源を維持し研究を支援する研究基盤体制の整備が本事業の趣旨である。

2.事業概要

  1. ショウジョウバエ遺伝資源の総合的管理・開発・提供事業。突然変異系統の収集。突然変異系統、野生型系統、染色体異常系統など、標準系統として使用されてきた重要な系統を7,000系統にまで拡大する。また、ショウジョウバエの全遺伝子13,000に対応する突然変異系統の維持管理を整備し、迅速な研究の進展を支援できる体制を整備する。そのためゲノムワイドなP因子やピギーバック等の挿入系統を京都工芸繊維大学と国立遺伝学研究所で各々10,000と5,000系統収集する。国内開発系統の収集を優先し、有用系統を諸外国から収集、維持する。新しい系統の開発研究を行い、系統のゲノムマーカーを用いた系統管理と複数遺伝子を対象とする量的遺伝形質の系統情報の提供体制の確立を企画する。

  2. ショウジョウバエ変異体系統の保存頒布とRNAi系統の開発。トランスポゾンの構造改変により、近傍の遺伝子の機能獲得型変異を誘発できるものや、遺伝子の発現をモニターできるものなど高機能型の変異体系統が作出されてきた。これらの系統維持において京都工芸繊維大学をバックアップし、RNAiを利用して遺伝子を配列特異的にノックダウンする変異体系統を系統的に作出し、これを維持保存頒布する。

  3. 日本産ショウジョウバエの収集・保存・提供事業。日本産ショウジョウバエ,50種300系統の野生型系統の採集や収集をおこない,近交系統の確立など標準的系統を作成する。種の分類のできる研究者の養成を中核機関と連携しながらおこない,ショウジョウバエ研究のための日本産ショウジョウバエの維持・提供及び系統のデータベース化もあわせておこなう。

  4. ショウジョウバエ近縁種の突然変異系統の収集・管理・提供事業。ショウジョウバエ近縁種に特徴的な生物現象の研究材料として、特にアナナスショウジョウバエとカスリショウジョウバエの突然変異系統と標準系統の収集・管理・提供は国際的規模で行う。あわせてその他の近縁種の突然変異系統の維持・管理・提供も行う。系統分類の後継者育成プログラムを企画、実践する。