高野敏行
国立遺伝学研究所 集団遺伝学部門 助教授
Toshiyuki Takano-Shimizu
Department of Population Genetics
National Institute of Genetics
演題:『遺伝子型と表現型を繋ぐための
自然集団変異間のエピスタシスの解析
Epistasis assessment to understand
connecting relationships between genotypes
at individual loci and phenotypes
』
要旨:
表現型は個体レベルでの各要因の効果の集積結果として発現される。環境等の影響に
加え、ショウジョウバエでは15000遺伝子の一つひとつがその要因と成りえる が、この集積の仕方を知ることが生き物を“まるごと”理解することになる。ところで、ショウジョウバエで有害突然変異を蓄積すると、適応度はその数とともに2次曲
線的に減少する相乗作用が認められる。こうした相乗性を含めた遺伝子間、要因間の非相加的な効果(エピスタシス)を自然集団中の変異について正確に評価する試みは ほとんど行われていない。しかし、エピスタシスの強弱は個別の遺伝子解析の積み上げの妥当性あるいは限界を明らかにするもので、ゲノムワイドの相互作用のサーチ、
評価が必要と考えている。
遺伝子間の代理機能はエピスタシスを生ずる機構のひとつで、個体発生の安定性を保証するものである。これは個々の遺伝子内の変異も許容することになるが、すべてのバックアップ機構の障害は許されない。この場合、個体の優劣はそれぞれの遺伝子座
の変異の効果の和ではなく、複数の遺伝子座の変異の組み合わせに依存することにな る。自然集団は実際に多量の変異を含んでいて、変異のあらゆる組み合わが常に自然淘汰のふるいにかけられている。そして「自然淘汰のふるい」による組み合わせ頻度の歪みを指標に遺伝子間の機能相関を予測することも可能と考えている。
本講演では、上述の考えにたちエピスタシスの相対的貢献度を評価することを目的に私達の研究室で行っている(1)ショウジョウバエの雄特異的形態形質である性櫛の
剛毛数変異の遺伝構造と(2)連鎖不平衡解析による遺伝子間相互作用の検出の2つの解析について紹介する。
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