香川弘昭>
岡山大学理学部 教授
演題:『線虫C.エレガンスの筋肉遺伝子の発現制御』
要旨:
2002年度のノーベル医学生理学賞は「器官発生と計画的細胞死の遺伝的制御」を明らかにした,S. ブレナー・R. H. ホルビッツ・J. E. サルストンの3名に授与される.これらの成果は線虫Caenorhabditis elegansを用いて行われた.細胞死の遺伝子はヒトにも相同性があり,線虫研究の成果が認められた.現在,線虫では全ゲノムの塩基配列が決定され,GFP形質転換体の作製やRNA干渉法等の手法も開発されている.
我々は線虫の筋肉蛋白質遺伝子を順次クローン化して,遺伝子構造,発現組織,変異体の解析などを行っている.筋肉遺伝子は食餌に使われる咽頭筋と、運動に使われる体壁筋がある.カルシウム制御に係わるトロポニンCには2つの組織で各1個の遺伝子があり2つの産物ができる.トロポミオシンでは1つの遺伝子から,それぞれの筋肉で2つ合計4つのアイソフォームが作られる.これらの遺伝子が如何に時期と組織特異的に発現調節されているかについて概説する.体壁筋遺伝子の発現制御については,これまで幾つかの試みが報告されたが確定していない.我々はトロポニンC遺伝子の体壁筋で発現するのに必要なプロモーター領域の配列を特定した(1).またトロポミオシンの組織特異的な発現調節にはイントロン内に有るエンハンサーが重要であることを確かめた(2,3).これらの結果を考え,体壁筋遺伝子発現の制御機構について作業モデルを作って研究している.体壁筋トロポニンC遺伝子は咽頭筋型遺伝子が重複して進化してきたと考えられる。そこで組織特異的な遺伝子産物の機能互換性があるかどうかを調べる目的で、互いに異なるプローモーターを持つキメラ遺伝子を発現させた形質転換体を作製して表現型を調べた。咽頭筋のトロポニンCは体壁筋のトロポニンC機能を一部補償したが、逆は機能しなかった。線虫を使うと進化の過程を機能の面から調べる実験ができるのではないかと考えている.
(1)J. Cell Biol. (1999) Terami et al, 146,193-202
(2)J. Mol. Biol. (2001) Anyanful et al, 313,525-535
(3) 生化学.(2002)香川弘昭,74,1176-1180
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