2. 第18回ショウジョウバエ遺伝資源センター公開セミナー
塩 見 春 彦 氏
(徳島大学ゲノム機能研究センター分子機能研究部門教授)
演題:『ショウジョウバエをモデル生物として用いた脆弱X症候群発症機構の解析』
要旨:
ショウジョウバエをモデル生物として用いた脆弱X症候群発症機構の解析
脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴う遺伝性疾患であり、精神遅滞以外にも多動、自閉症様行動、感覚刺激に対する異常な反応、睡眠障害等の様々な行動障害が見られる。
患者では脳の高次機能(特に可塑性)に直接関わることが確実視されている樹状突起上スパインの形態異常が見られるが、その分子機構は不明である。本疾患の原因は翻訳過程に関与するRNA結合タンパク質をコードするFMR1遺伝子の機能喪失であることが判明している。
私達は、FMR1遺伝子の機能を理解するために、ショウジョウバエFMR1遺伝子(dFMR1)の機能解析を進めてきた。dFMR1変異体は概日リズムや性行動の異常、そして記憶障害を示す。
さらに、私達は生化学的解析によりdFMR1 タンパク質が、細胞質においてRNAi(RNA干渉)関連分子と複合体を形成していることを明らかにした。
これは「RNAi分子装置の異常による疾患」というヒト分子遺伝学の全く新しい領域を開くさきがけとなった。
真核生物遺伝子発現制御の新パラダイムであるRNAiはFireらにより1998年に発表された2本鎖RNAにより誘導される配列特異的な遺伝子発現抑制機構である。
ここ数年、RNAiおよびRNAi関連分子経路が関与する新しい生物学の発見が続いている。
その中でも特に、miRNAや内在性siRNAおよびそれらと特異的な複合体を形成する蛋白質(Argonaute蛋白質等)はゲノム品質管理、細胞増殖、細胞死、細胞運命系譜決定、幹細胞維持、発生段階の時間的制御等、様々な生物学的プロセスに関与していることが明確になってきた。
dFMR1とRNAi関連分子との相互作用の発見をキッカケとして、私達は脆弱X症候群発症機構の研究からRNAサイレンシング研究へと仕事を展開している。
最近の成果も含め発表したいと思います。 |