京都工芸繊維大学

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第7回 公開セミナー

第7回 公開セミナー

日時:2002年11月15日(金)午後2時~午後4時
場所:京都工芸繊維大学 1号館3階大学院会議室(案内地図)


 小熊 讓
 筑波大学 生物科学系 教授

 演題:『キイロショウジョウバエ自然集団における
     殺虫剤抵抗性の遺伝学的解析』


 要旨:
 殺虫剤の散布は集団中に存在する抵抗性の遺伝子型に対する選択圧となるので、殺虫剤抵抗性の発達は進化の過程として取扱うことができる。殺虫剤抵抗性および感受性の遺伝的変異が集団中に維持される機構の遺伝的基礎について、以下のような結論を得た。
 1.採集を行ったすべての自然集団中に、抵抗性から感受性までの幅の広い連続的な変異が観察された。かつそれぞれの有機リン剤に対する抵抗性の変異の間に高度に有意な正の相関が存在した。
 2.得られた抵抗性および感受性系統を用いた交配実験により、勝沼集団中に複数の有機リン剤抵抗性遺伝子の存在が示唆された。このことは、抵抗性および感受性系統から作製した染色体置換系統を用いた、3種類の有機リン剤に対する抵抗性の染色体分析においても示唆された。
 3.可視突然変異系統を用いて、3種類の有機リン剤それぞれに対する抵抗性遺伝子をマッピングしたところ、II‐62およぴIII‐50にマップされた。
 4.勝沼自然集団においては、有機リン剤に対する抵抗性レベルが、個体数が急激に増大する秋に低下する傾向が2年間にわたり観察された。
 5.勝沼自然集団から1雌由来系統を作製し、系統ごとに3種類の有機リン剤に対する抵抗性および適応度形質の1つである産仔生産力を測定したところ、それぞれの有機リン割に対する抵抗性と産仔生産力との間に、負の相関が存在した。
 6.勝沼自然集団に由来する抵抗性および感受性系統から作製した染色体置換系統を用いて、3種類の有機リン剤に対する抵抗性および産仔生産力について染 色体分析を行ったところ、抵抗性系統の第3染色体から、3種類の有機リン剤に対する正の効果および産仔生産力に対する負の効果が検出された。
 以上の結果から、キイロショウジョウバエ自然集団中における殺虫剤抵抗性の遺伝的変異は、抵抗性の発達に伴う交差抵抗性(正の相関反応)および感受性の回復(負の相関反応)により、集団中に維持されている可能性が示唆された。


 高野敏行
 国立遺伝学研究所 集団遺伝学部門 助教授
 Toshiyuki Takano-Shimizu
 Department of Population Genetics
 National Institute of Genetics

 演題:『遺伝子型と表現型を繋ぐための
     自然集団変異間のエピスタシスの解析

     Epistasis assessment to understand
     connecting relationships between genotypes
     at individual loci and phenotypes

要旨:

表現型は個体レベルでの各要因の効果の集積結果として発現される。環境等の影響に 加え、ショウジョウバエでは15000遺伝子の一つひとつがその要因と成りえる が、この集積の仕方を知ることが生き物を“まるごと”理解することになる。ところで、ショウジョウバエで有害突然変異を蓄積すると、適応度はその数ととも に2次曲 線的に減少する相乗作用が認められる。こうした相乗性を含めた遺伝子間、要因間の非相加的な効果(エピスタシス)を自然集団中の変異について正確に評価す る試みは ほとんど行われていない。しかし、エピスタシスの強弱は個別の遺伝子解析の積み上げの妥当性あるいは限界を明らかにするもので、ゲノムワイドの相互作用の サーチ、 評価が必要と考えている。

遺伝子間の代理機能はエピスタシスを生ずる機構のひとつで、個体発生の安定性を保証するものである。これは個々の遺 伝子内の変異も許容することになるが、すべてのバックアップ機構の障害は許されない。この場合、個体の優劣はそれぞれの遺伝子座 の変異の効果の和ではなく、複数の遺伝子座の変異の組み合わせに依存することにな る。自然集団は実際に多量の変異を含んでいて、変異のあらゆる組み合わが常に自然淘汰のふるいにかけられている。そして「自然淘汰のふるい」による組み合 わせ頻度の歪みを指標に遺伝子間の機能相関を予測することも可能と考えている。

本講演では、上述の考えにたちエピスタシスの相対的貢献度を評価することを目的に私達の研究室で行っている(1)ショウジョウバエの雄特異的形態形質である性櫛の 剛毛数変異の遺伝構造と(2)連鎖不平衡解析による遺伝子間相互作用の検出の2つの解析について紹介する。

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