京都工芸繊維大学

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第8回 公開セミナー

第8回 公開セミナー

日時:2002年12月19日(木)14時30分~16時30分
場所:京都工芸繊維大学 工繊会館1階 多目的室(案内地図)


 上田 龍
 国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 教授
 三菱化学生命科学研究所 TR研究部門 連携研究員

 演題:『体系的 RNAi による
     ショウジョウバエゲノムの機能解析』


 要旨:

RNA干渉(RNAi)法は、標的遺伝子配列と相同な配列及び相補的配列を持つ二本鎖RNAを細胞内に導入す ることにより、標的遺伝子の発現を抑制する技術である。まだその分子機構は十分には解明されていないが、線虫、植物、ハエ、さらには哺乳類を含む脊椎動物 など幅広い生物種で有用なことが示されている。ショウジョウバエにおける研究では、あらかじめin vitroで作成した二本鎖RNAを直接細胞内に導入する手法と同様に、逆方向反復配列からなるRNAを細胞内で発現するDNA(IRベクター)を導入 し、細胞内で二本鎖RNAを現出させることで有効に標的遺伝子の発現抑制が出来ることが確かめられつつある。
ゲノム計画により明らかにされた遺伝子の機能解析には、系統的な遺伝子変異技術が不可避である。ショウジョウバエの場合、もっとも伝統的な変異体作成法と しては化学変異原を利用したものや、トランスポゾンP因子の挿入あるいは挿入後の不正確な切り出しを利用した方法が考えられる。これらの手法は基本的に有 用であり、今後とも利用されていくものではあろうが、RNAi法にはこれらにはない特徴が幾つかある。
 

1) 遺伝子を出発点とした逆遺伝学的アプローチが可能である。すなわち、RNAi法を用いるとゲノム配列解析から得られた任意の遺伝子「候補」の機能アッセイを直接的に行うことが出来る。

2) RNAi法は、ノックダウンの結果が劣性となる通常の変異体作成法と異なり、優性変異を起こす。中枢神経系や発生分化に関わる多くの遺伝子は機能的に冗長 な遺伝子(redundant gene)であり、そのため、その機能解析は非常に困難であった。IRベクターは染色体のどこにあっても良くかつ1コピーで有効であるため、ハエの系統を 単純に交配するだけで2重変異、3重変異を作ることが出来る。

3) ショウジョウバエの場合、IRベクターの発現をGAL4-UAS遺伝子発現誘導法により行うことで、組織/発生時期特異的に遺伝子のノックダウンを行うこ とが出来る。しばしば重要な役割を担う遺伝子の変異体では発生初期に致死となり、発生後期の遺伝子機能を解析する上で非常に複雑な技術(モザイク解析法) を用いなければならなかった。しかしながら誘導型RNAi法では、適切なGAL4ドライバー系統のハエとIRベクターを持つハエを交配するだけで特定の組 織/発生時期に遺伝子発現が抑制された変異体ハエを作り出すことが出来る。これは遺伝子の多面的な機能を解明する上で非常に有効な手法と考えられる。

4) RNAi法は染色体構造に依存しない。すなわち、gene in the geneあるいはoverlapping geneのような染色体に傷を付けると複数の遺伝子機能が変異するおそれのある場合でも、標的遺伝子のみを特異的に抑制することが出来る。
現在私たちは、

1)ショウジョウバエでタンパク質をコードする遺伝子(13,800個)に対応するIRベクターを体系的に作成し、それをP因子導入法でショウジョウバエ個体に導入し、ショウジョウバエの変異体を網羅的に作成する技術を開発する。

2)実際に10,000規模の系統からなる変異体のバンクを作成し、発生分化に関与する遺伝子ネットワークの機構解明に応用する。

というプロジェクトをおこなっており、本セミナーではその状況についてお話ししたい。

 香川弘昭>
 岡山大学理学部 教授

 演題:『線虫C.エレガンスの筋肉遺伝子の発現制御』

 要旨:

 2002年度のノーベル医学生理学賞は「器官発生と計画的細胞死の遺伝的制御」を明らかにした,S. ブレナー・R. H. ホルビッツ・J. E. サルストンの3名に授与される.これらの成果は線虫Caenorhabditis elegansを用いて行われた.細胞死の遺伝子はヒトにも相同性があり,線虫研究の成果が認められた.現在,線虫では全ゲノムの塩基配列が決定され, GFP形質転換体の作製やRNA干渉法等の手法も開発されている.
 我々は線虫の筋肉蛋白質遺伝子を順次クローン化して,遺伝子構造,発現組織,変異体の解析などを行っている.筋肉遺伝子は食餌に使われる咽頭筋と、運動 に使われる体壁筋がある.カルシウム制御に係わるトロポニンCには2つの組織で各1個の遺伝子があり2つの産物ができる.トロポミオシンでは1つの遺伝子 から,それぞれの筋肉で2つ合計4つのアイソフォームが作られる.これらの遺伝子が如何に時期と組織特異的に発現調節されているかについて概説する.体壁 筋遺伝子の発現制御については,これまで幾つかの試みが報告されたが確定していない.我々はトロポニンC遺伝子の体壁筋で発現するのに必要なプロモーター 領域の配列を特定した(1).またトロポミオシンの組織特異的な発現調節にはイントロン内に有るエンハンサーが重要であることを確かめた(2,3).これ らの結果を考え,体壁筋遺伝子発現の制御機構について作業モデルを作って研究している.体壁筋トロポニンC遺伝子は咽頭筋型遺伝子が重複して進化してきた と考えられる。そこで組織特異的な遺伝子産物の機能互換性があるかどうかを調べる目的で、互いに異なるプローモーターを持つキメラ遺伝子を発現させた形質 転換体を作製して表現型を調べた。咽頭筋のトロポニンCは体壁筋のトロポニンC機能を一部補償したが、逆は機能しなかった。線虫を使うと進化の過程を機能 の面から調べる実験ができるのではないかと考えている.
(1)J. Cell Biol. (1999) Terami et al, 146,193-202
(2)J. Mol. Biol. (2001) Anyanful et al, 313,525-535
(3) 生化学.(2002)香川弘昭,74,1176-1180

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