・ | 川口 正代司 博士のセミナー | |||
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日時 | : | 2010年10月20日 (水) 16:00- | ||
場所 | : | 産業技術総合研究所 つくばセンター中央第6事業所 S6-9棟2F 第1会議室(228-1室) (MAP, 構内図) (外部の方は6-9棟の受付で手続きの後,正面のエレベーターもしくは階段で2Fにおあがりください。) | ||
講師 | : | 川口 正代司 博士 (基礎生物学研究所) | ||
演題 | : | マメ科植物が進化させた根粒菌との共生バランスを制御するシステム | ||
要旨 | : | |||
マメ科植物は窒素固定細菌である根粒菌との相互作用によって、根に根粒という共生器官を形成する。しかし、共生窒素固定には大きなコストがかかるため、植物は根粒菌の感染や根粒の数を厳密に制御している。共生を制御する宿主側因子の全体像を知るために、日本に自生するマメ科の草本ミヤコグサを使って根粒共生変異体の大規模スクリーニングを行ったところ、根粒数の制御が破綻したhar1、klavier、too much love (tml)などの根粒過剰着生変異体を単離することができた。接ぎ木実験によってHAR1 とKLAVIER がシュート(植物の地上部)で、TML が根で機能することが示唆された。岐阜と宮古島由来のミヤコグサのDNA多型を用いてHAR1の原因遺伝子を特定した。HAR1はLRR型受容体キナーゼをコードしており、根粒菌の感染情報をシュートで感知して、根粒菌感染を遠距離に制御するレセプターであると考えられた。興味あることに、HAR1は非マメ科植物であるシロイヌナズナの遺伝子の中でCLAVATA1と最も高い相同性を示した。CLAVATA1は細胞間コミュニケーションを介して茎頂メリステム(植物の地上部を生み出す分裂組織)の細胞分裂を負に制御することが知られているため、ミヤコグサとシロイヌナズナで遺伝子機能に大きな違いがあることが明らかとなった。マメ科植物は、根粒菌と共生系を確立する進化プロセスにおいて、茎頂メリステムの維持に関わるCLAVATA1遺伝子をリクルートすることによって、根粒菌との共生バランスを制御するシステムを確立したことが推測された。 この茎頂メリステムを支えるCLAVATA1遺伝子の共生系へのリクルートは、偶然か必然か。遺伝子を特定して以来、「偶然」と思っていたが、その後のKLAVIERの表現型解析やHAR1のリガンド候補の特定などによって、「必然」かもしれないと考えるようになった。セミナーでは、これまでの結果を踏まえ、根粒という新しい共生器官がどのようにして進化してきたについて、最近考えていることを紹介する。 |